年代別の注意点を覚えて歯を長持ちさせよう
口の中の病気の多くは、糖尿病や肥満などと同じ生活習慣病であるといわれています。つまり、食後にきちんと歯みがきをしない、やわらかいものばかり食べている、ダラダラと間食をするなどの歯にとって悪い生活習慣で引き起こされるものなのです。歯の健康は、歯科医による治療以上に、いかに日ごろ自分で予防するかにかかっています。口の中の状態は、年齢や性別などによって、注意したいポイントが変ってきます。それぞれの注意点を覚え、自分の歯をたいせつにしてください。
胎児期
「ママの体内にいるときから歯の芽はできはじめます」
胎児期の特徴
「歯胚は歯のもとになる小さな細胞のこと」
私たちの歯はふつう、乳歯で生後6か月ごろから、永久歯で5〜6歳ごろから生えはじめます。
これは、突然生えてくるわけではなく、歯肉の中で、将来歯となる歯胚という細胞が、胎児のころから着々と準備を進めてきた結果、生えてくるものです。乳歯の歯胚は、やがて少しずつかたく(石灰化)なり、生える準備をはじめます。この歯胚は、歯の元となる小さな細胞のことで、生まれてからの歯の数などを決めるたいせつな細胞です。
歯胚が石灰化する時期に母親の体調などが悪いと、乳歯のエナメル質がきちんとつくられないこともあります。
「妊娠期間のごく初期から歯胚はできはじめます」
乳歯の芽である歯胚は、妊娠6〜8週ごろというごく初期からつくられはじめます。
歯胚ははじめ口腔内の上皮細胞が分裂をして形成を始めます。
この小さな細胞が増殖を繰り返し、歯を形づくるエナメル質や象牙質のもととなる細胞に成長していくのです。このころの歯胚はまだやわらかいままですが、細胞がだんだんと歯の形に近づいた妊娠4〜6か月ころから、今度は生えるのに備えて少しずつかたく石灰化していきます。
このようにして、妊娠中に乳歯の前歯の歯冠は、ほぼ完成間近までつくられてしまいます。
また、永久歯の歯胚の一部も、妊娠5か月ころから、乳歯の歯胚の下で成長を始めます。
ここに注意
歯の強い子にするためにママが気をつけたいこととして、赤ちゃんの生育は、お母さんがまだ妊娠にも気づいていない初期のころから出産までの間、ずっと続いているということです。ですから、歯のじょうぶな子にするためには、妊娠中のお母さんの健康状態や栄養管理がとてもたいせつです。
栄養の中で歯の形成と関係が深いのは、歯胚をつくるたんぱく質、エナメル質や象牙質をつくるビタミンAやC、石灰化をさせるカルシウムやリン、それらの働きを助けるビタミンEなどです。これらは、ふだんの食事から、できるだけまんべんなくとるように心がけたいものです。
とくにカルシウムは、ただでさえ不足しがちな栄養素なので、ふつうのおとなの1日の必要所要量(600mg)の1.5倍(900mg)はとるつもりで。
つわりなどでつらいときもありますが、調理法を工夫するなどして、赤ちゃんのためにがんばりましょう。
乳幼児期
「健康な永久歯のためにたいせつにしたい乳歯」
この時期の特徴
「6か月〜3歳ごろに乳歯が生えそろいます」
生後6か月ころから、赤ちゃんの乳歯がだんだんと生えてきます。
乳歯は上の歯が10本と下の歯が10本の計20本で、2歳半から3歳ごろにかけて、ゆっくりと時間をかけながら、全部の歯が生えそろいます。生える時期や順番はだいたいの目安で、人によっては多少順番が違ったり、次期がずれたりすることがありますが、プラスマイナス半年程度の差なら、とくに心配する必要はないでしょう。また、永久歯の歯胚(歯の芽)も、誕生前から、乳歯の歯胚の下でさかんに成長を始めます。
「乳歯はムシ歯になりやすく、進行も早い」
生えてきたばかりの乳歯は、実はまだ完全にできあがっているわけではありません。歯の表面のエナメル質が、充分にできていないのです。乳歯は何年もかけて、リンやカルシウムをとり入れ、徐々にエナメル質を強くしていきます。たとえていえば、骨組みはできたけど、防火や地震対策がされていない家のようなもの。少しのムシ歯菌に、あっという間に負けてしまいます。また、乳歯は永久歯に比べてエナメル質や象牙質の層がうすいので、ムシ歯になると、すぐに神経まで侵されてしまいます。
「健康な永久歯づくりは乳歯時代からスタートです」
乳歯が生えることにより、子どもは徐々にものをかんで食べられるようになりますが、乳歯の役割はそれだけではありません。乳歯は顔の形を整え、発音を助けます。また、乳歯の正しい歯並びは、永久歯が正しく生える場所の確保をしています。どうせ生えかわるからなどとムシ歯を放置して早い時期に抜けてしまうと、永久歯が正しい位置に顔を出すことができず、歯並びが悪くなってしまいます。
また、最近ではあごの発育が不充分で、とくにムシ歯などがなくても、永久歯の生える場所ができずに、歯並びが悪くなる場合も多いようです。あごはかむことにより発育します。乳歯の時期に、歯ごたえのあるものを充分食べてかむトレーニングをし、永久歯に備えましょう。
ここに注意!
ムシ歯の原因ミュータンス菌は母親から移りますムシ歯とひと口にいっても、おとなのムシ歯と子どものムシ歯では、原因となる細菌の種類が異なります。おとなになってからできるムシ歯は口の中にいつもいる「常在菌」という毒性の弱い細菌に感染することによって起こります。
一方子どもの急激に進行するムシ歯は、「ミュータンスレンサ菌」という菌に感染することによって起こることが多いのです。
このミュータンスレンサ菌は、生まれたての赤ちゃんはだれも持っていません。
では、どうやってこの菌に感染するかというと、母親の口の中にいるミュータンスレンサ菌が、唾液を介して感染するのです。
口移しでものを食べさせたり、同じスプーンを使うなどで、簡単に感染してしまいます。
感染期間は、1歳7か月〜2歳7か月くらいの間といわれているので、この時期はとくに注意しましょう。感染したミュータンスレンサ菌は、口の中にもともといた常在菌と歯の表面の縄張り争いをし、このときに常在菌が勝てば、その後もミュータンスレンサ菌に感染する可能性は低いといわれています。
ミュータンスレンサ菌が勝った場合は、この菌が「非水溶性グルカン」という非常にベットリとした物質をもとにした歯垢をつくり、その中で次々にムシ歯のもとになる酸をつくります。この歯垢は、通常の歯みがきでは取れないほど、強力に歯の表面にくっつくので、歯科医院で専門的なクリーニングをしてもらう必要があります。
学童期
「5〜6歳ごろから乳歯と永久歯の生えかわりが始まります」
この時期の特徴
「乳歯と永久歯は時間をかけて徐々に生えかわります」
人間の歯は二生歯性といい、ある程度の年齢に達すると、乳歯が永久歯に生えかわります。
乳歯と永久歯の交代は、一般的に6歳ごろから始まり、6〜7年間という期間をかけて徐々に生えかわり、第三大臼歯(親知らず)を除く28本の歯が12〜13歳のころに生えそろいます。
これはちょうど、小学校に入学して卒業するまでの間で、この時期の子どもからおとなへの移行が口の中で少しずつ行われていると思えばいいでしょう。生えかわる順序や時期は目安なので、プラスマイナス半年程度の差なら心配する必要はありません。
また、20歳前後に第三臼歯が生えてきますが、この歯は退化する傾向にあり、もともと歯のない人もいますが、心配はありません。
「生えかわりに異常はないかしっかり観察しましょう」
永久歯の奥の上下6本ずつ計12本(第一臼歯、第二臼歯、第三臼歯)の歯は、それまで歯のなかったところの歯肉を破って生えてきますが、それ以外の歯は乳歯のあった場所に、乳歯を押し上げながら生えてきます。この生えかわりのプロセスに何らかの異常や不都合があると、永久歯が生えてこれなかったり、正しい場所に生えずに歯並びが悪くなったりします。
歯並びが悪いと食べものがきちんと咀嚼できないばかりか、ムシ歯や歯周病になりやすかったり、全身のバランスがくるい健康に悪影響を及ぼします。生えかわりの時期は、親が子どもの口の中の変化をしっかりと見守り、異常がある場合は歯科医に相談して、子どもの歯並びを管理することがたいせつです。
「永久歯は50年以上使うたいせつな歯です」
永久歯は、これから一生使う歯です。
人は歯があることによって、ものをおいしく食べられるのはもちろん、かむことで脳を刺激し、いつまでも元気で若々しくいられるのです。人間の寿命は男性で約76歳、女性で約83歳ですから、永久歯は70年以上もたいせつに使っていかなければならないのです。
永久歯は、親知らずを含めると上下16本ずつ計32本の歯で成り立っています。80歳で20本以上の自分の歯を残すことを目標に、歯のことをよく観察してデンタルIQを高め、子どものころからムシ歯や歯周病をしっかり予防しましょう。
ここに注意!
「永久歯列のかなめ第一臼歯を守ろう」
生えてから2〜3年以内の歯は、乳歯でも永久歯でもムシ歯になりやすいのが特徴です。
生えたばかりの歯のエナメル質は、構造的に完全にできあがっておらず、生えてから数年をかけてたんぱく質の柱の間にリンやカルシウムといった無機質をとり入れて少しずつ丈夫になります。また、歯の生えかわる時期は、歯並びも不ぞろいで歯みがきがしにくく、口の中に汚れがたまりやすい状態にあります。
ですから、永久歯が生えはじめる6歳ごろと生えそろう12〜13歳ごろは、非常にムシ歯になりやすい時期といえます。歯は一度失うと、二度ともとに戻らないもの。
子どものころから歯のたいせつさを理解させて、親子でムシ歯予防に努めるようにしたいものです。とくに、6歳ごろいちばんはじめに生えてくる第一臼歯は、永久歯の中でももっともかみくだく力が強く、かむ力の中心的役割を担っています。
また、永久歯全体の歯並びやかみ合わせの基本ともなるたいせつな歯なので、万が一ムシ歯で失うようなことがあると、永久歯全体にも影響を及ぼします。第一臼歯は、顔を出してから完全に生えるまで約1年かかり、乳歯の奥に生えてくるので気づきにくく、歯ブラシも届きにくいので、ムシ歯になりやすい歯です。注意してあげましょう。
成人期
「成人期は歯周病に注意!歯と歯肉を守ろう」
この時期の特徴
「歯を失う原因のナンバーワンが歯周病」
「歯を失う原因のナンバーワンが歯周病」
10代のころになった歯肉炎をきちんと治療しないと、おとなになるころには歯周病まで悪化してしまいます。歯周病というと、歯肉から血が出る病気などと軽く考えがちですが、実はムシ歯を抜いて歯を失う原因としてもっとも多い病気。歯周病は、歯の表面に付着した歯垢の中にいる細菌によって、引き起こされるものですが、歯肉はもともと組織的に弱く、病気になりやすいことを覚えておきましょう。
歯肉は歯という体の中でもっともかたい部分と接している部分です。ちょうど金属と布がくっついているのと同じなので、ちょっとして無理が、すぐに病気につながってしまいます。ですから、細菌の増殖や全身の抵抗力の低下などで、すぐ歯周病は発生してしまいます。
「顎関節症や親知らずのトラブルにも注意」
あごを動かそうとすると痛みがあったり、口が開かなくなるなどの顎関節症に悩む人も20〜30代に多いようです。これはあごの間接や咀嚼筋の機能障害によって起こるものと考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。歯のかみ合わせや姿勢などが原因の場合もあるので、一度歯科医院に相談してみましょう。また、20歳前後に親知らずが生えてくる人もおり、これが正しい位置に生えずに、隣の歯を圧迫したり歯並びを悪くする原因になったりもします。また、ゆっくり生えてくるので、みがきにくくムシ歯になりやすいのも特徴です。トラブルのある親知らずは、歯科医院で抜いてもらった方がいいでしょう。
「生活習慣を改善して歯の健康を守ろう」
ムシ歯も歯周病も、直接の原因は歯垢中の細菌による感染症ですが、原因となる歯垢をきちんとコントロールできない点から考えると、生活習慣病であるともいえます。これらの病気の難しいところは、病気の治療をしても、原因を誘発するその人の生活習慣や体の抵抗力などを改善出来ないと、すぐに再発してしまうという点にあります。とくに歯肉に悪影響を与える危険因子は、喫煙、過度の飲酒、食生活、年齢、糖尿病、ストレスなどで、中でも喫煙と歯周病のとの関わりは世界的に指摘されています。これらの危険因子は、口や歯のみならず、全身の健康にも悪影響を及ぼすものです。健康に対する意識を高め、生活習慣を見直しましょう。
老年期
「老年期は義歯と残った歯をたいせつにしましょう」
この時期の特徴
「義歯を装着している人が多くなります」
歯の寿命は、もともと約50年くらいといわれています。仮に13歳から永久歯を使ってきたとして、70歳のときにはもう57年使ってきていることになります。比較的口の健康に気をつけてきた人でも、何本かの歯を失うことはやむを得ないことかもしれません。
60代〜70代くらいになると、多くの人が10〜20本程度の歯を失っているというのが現状です。中には1本も自分の歯が残っていないなどという人も珍しくありません。人間の歯はとても精巧で、どんなにかたいものもかみ切れる力があると同時に、1本の髪の毛の食感がわかるほど、デリケートです。義歯は人間の歯にできるだけ近くつくられていますが、やはり自分の歯のようにはいきません。
食べものもかみにくくなり、口の中で咀嚼が充分にできなくなるので、歯の健康は、全身の健康を左右するほどのたいせつなことなのです。歯の寿命は50年といいましたが、ケアによってはもっと長もちさせることが可能です。歳をとったら、歯が抜けてしまっても当たり前なんて思わないで、残っている歯を少しでも長もちさせるように、今からでも頑張りましょう。
「あきらめないで!残った歯の保存」
よくできた義歯でも、人間の歯にはかなわないもの。いつまでも健康で若々しくいるためには、残った歯を少しでも長くもたせるようなケアが必要です。部分義歯を入れていると、バネや義歯と接している自分の歯などに歯垢がたまりやすいので、取はずしてていねいに清掃を。また、義歯は歯肉を傷つけたり、刺激を与えたりして歯肉の細菌に対する抵抗力を弱めることがあります。
歯肉をマッサージするなどして、抵抗力を高めてあげましょう。総義歯の人でも、同様にていねいな清掃が必要です。また、義歯が合わないときは、我慢しないでこまめに歯科医院で調整してもらいましょう。